理想について

備忘録

太った海鼠

違和感。食道に住み着く例の海鼠は、私に一片の呼吸の余地しか与えない。

吐き気。嘔吐は決してないという確信は、一瞬の安寧と不快の永遠性を知らせる。

 

それは体の穴という穴から入ってきたミミズによって生まれた。口からも鼻からも耳からも目からも入ってきたミミズは、突然一点に集合する。それがいつ入ってきたのかも誰が持ち込んだのかも、分かるまいが、得体のしれないそれは確かに私の中にいる。無論それは生き物だ。繋がりから生まれ繋がりを産んでいく生き物だ。

 

無能。その間、私は私の全てを失うのだ。理性は理性であり続けながら感情を増幅させ、感情は我が物顔で理性を乗りこなす。「ついにこの日が」とばかりに。あらゆる経験は一つの経験のために抽象化され、一つの結果はあらゆる原因を導く。

 

睡眠という知恵は意味をなさない。視覚を閉じれば語感は触覚に再配分されるのだ。耐えられなくなった私は、海鼠のざらついた表面と喉奥との間に親指を差し込んで端っこを掴む。滑った海鼠に焦って指圧をかける。その膨張を嗚咽で感じとる。彼の痛みを感じながら、彼の体液を感じながら、彼の体温を感じながら、ようやく異物を取り出した。腫瘍を指先でつまみながら、排水溝に放り投げた。

 

えも言われぬ爽快感に襲われると、私は安心して一服し、床に着く。小汚いミミズが終始入り込んでいることも知らずに。

 

準備はできない。